「がくさん、実は…」
マンションの管理人さんが、申し訳なさそうな顔で僕に声をかけてきました。 掲示板に「子供の騒音にお気を付けください」という注意書きが貼られた、数日後のことです。
「あの貼り紙、きっかけは、がくさんのお部屋の下の階の方からでして…」
頭から、サッと血の気が引いていくのが分かりました。 あの日から、僕たち家族が「マイホーム」と呼んでいた場所は、安らぎの空間ではなくなったのです。
はじめまして。当ブログを運営する、がくです。
これは、僕たち家族が夢見て購入したマンションを、子供の足音が原因の騒音トラブルによって手放し、戸建てに住み替えるまでの、嘘偽りのない物語です。
今まさに、集合住宅での騒音問題に心を痛めているあなたに、一つの実例として届けば幸いです。
夢の城が一転、悪夢の始まりへ
2018年、僕たちは中古マンションを購入しました。最上階の角部屋で、日当たりは最高。リフォーム済みで内装もピカピカでした。妻と二人、「ここで子供を育てて、ずっと幸せに暮らすんだ」と、輝かしい未来を思い描いていました。
2020年に長男が誕生し、やがて家中を元気に走り回るように。 その微笑ましい「タン、タン、タン…」という足音が、自分たち家族を地獄に突き落とす引き金になるとは、想像もしていませんでした。
拒絶された羊羹と、一方的に閉められたドア
管理人さんから話を聞いた日の夜、僕と妻は重い雰囲気の中で話し合いました。 「とにかく、すぐに謝りに行こう」 翌日、僕たちは菓子折り(虎屋の羊羹でした)を手に、階下の部屋のインターホンを鳴らしました。
出てきたのは、初老の男性。僕が謝罪の言葉を伝えると、男性は僕たちの目を見ずに、溜め込んでいたであろう不満を静かに、しかしはっきりと語り始めました。
「自分も子育てをしていたから、子供が騒ぐのはわかる。しかし、四六時中というのはどうなのか」 「映画鑑賞が趣味だが、あなた方の騒音のせいで、もう何か月も映画を見られていない」 「家にいると気が滅入るから、無理やり散歩に出る時間を増やしている」
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。「申し訳ありません」と平謝りするしかありません。 そして、用意した羊羹を差し出した、その時でした。
「そんなものは受け取れない。受け取ったら、この騒音を許容したことになってしまうから」
そう言い捨てると、男性は一方的にドアを閉めました。 バタン、と閉まった重いドアの音。それは、僕たち家族の長い戦いの始まりの合図でした。
出口のない対策地獄。すり減っていく心
その日を境に、僕たちの生活は一変しました。 「対策をしなければ」その一心で、僕たちは考えうる限りのことをやりました。
- 対策1:パネル式のプレイマットを敷く
まずは衝撃吸収。リビング全面に厚手のウレタンマットを敷き詰めました。 - 対策2:防音・遮音シートを重ねる
次に、藁にもすがる思いでAmazonで高評価だった遮音シート「音なし減さん」を購入し、マットの下に仕込みました。 (→別記事『音なし減さんを1年間使ってみたリアルな感想レビュー』で詳しく解説しています) - 対策3:フローリングのリフォームを検討
物理的な対策の限界を感じ、防音フローリングへのリフォームを本気で検討。しかし、提示された数十万円という金額と、「足音の防音は難しい」という専門家の一言に、心が折れました。 (→別記事『騒音対策リフォームの見積もり4通を全公開!』で詳しく解説しています)
対策をしても、クレームがなくなることはありませんでした。 日に日に増えていくのは、子供を叱りつける僕たちの声だけ。
「お願いだから、走らないで…!」 「ジャンプしないで!」
一番つらかったのは、本来なら最も安心できるはずの「家」が、息の詰まる場所に変わってしまったことです。 のびびと遊ばせてあげられない罪悪感で、妻が涙を流す日もありました。息子から遊びを奪っているのは、他の誰でもない自分たちだという現実に、ただただ胸が締め付けられました。
「パパ、走ってもいい?」 – 家族のための大きな決断
「もう、この家を出よう」
僕たちは、この家を出ることを決意しました。 住宅ローンはまだ32年分も残っています。それでも、「家族の笑顔と平穏を取り戻す」という一心だけで、僕たちは突き進むしかなかったのです。 (→この売却と購入の物語は、全3話のシリーズで詳しくお話ししています)
そして2023年、僕たちはマンションを売却し、同じ市内にあった建売住宅を購入しました。
引っ越した初日のことです。 新しい家のリビングで、長男が僕の顔を見て尋ねてきました。
「パパ、走ってもいい?」
その一言に、これまでの苦労がすべて詰まっている気がしました。
「いいよ!ジャンプしたっていいし、サッカーしたってOKだよ!」
そう答えると、息子は満面の笑みで、リビングを元気いっぱいに走り回りました。その姿を見て、妻と二人、笑いあったのを覚えています。
僕たちが手に入れたのは、子供が家の中で思いっきり笑い、走り回れる自由。そして、誰にも怯えなくていい「精神的な平穏」でした。
最後に、かつての僕と同じように苦しんでいるあなたへ
ここまで、僕の長い体験談を読んでいただき、本当にありがとうございます。 もしあなたが今、騒音トラブルで苦しんでいるなら、伝えたいことが一つだけあります。
どうか、自分や家族を責めないでください。 子育て中の生活音は、決して「悪」ではありません。
そして、もし八方塞がりだと感じたら、思い出してください。 「住み替え」は、逃げではありません。家族が笑顔で暮らせる毎日を取り戻すための、一つの前向きな「解決策」になり得るということを。
この僕の体験が、あなたの心を少しでも軽くし、次の一歩を踏み出すための、何かのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
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